上顎犬歯の位置異常にたいする処置法を考える その4
「埋伏犬歯牽引の実際」に入る前に少しまとめておきましょう。
しっかりしたバイオブロック治療ができていない相当前の症例ではありますが、下の写真をご覧ください。(口腔内写真とパノラマX線写真のクオリティーが低い!)
右側中切歯のクロスバイトを主訴に来院された患者さんの口腔内写真、およびパノラマX線写真です。
そのX線写真から、左右側切歯2歯が先天性欠如であること。
さらに、その側切歯が存在するべき場所に永久歯である犬歯が位置していることが認められます。
犬歯が乳犬歯と完全にすれ違うことで乳犬歯の歯根吸収が起きないでしょうし、もし
『 永久歯の歯冠が乳歯歯根に長期間接することによって吸収が起き始める 』
ことが本当であるならば、犬歯によって乳側切歯の歯根吸収が促進されるだろうと予想できます。
実際、その吸収によって何らかの信号が伝わったのか、矯正力は加えていませんが、乳側切歯に取って代わる形で萌出してくれました。
この症例では、犬歯が骨内での位置異常が大きかったために、永久歯である左右側切歯の先天性欠如を補うという方向で治療を進めたわけです。
進学の関係で、上顎第2大臼歯の萌出がまだであったため、萌出に伴う上顎スペアースペースの閉鎖と、それに伴う咬合の緊密化が起こるのかを見届けられなかったこと。
また側切歯代わりの犬歯をリシェイピングすることで、無理のないアンテリアガイドを付与することまでできなかったこと。
さらに乳犬歯に大きな負担がかからないよう、スムーズなグループファンクションドオクルージョンに誘導するまでの治療ができなかったことが心残りであった症例ですが、治療方針としては問題なかっただろうと思います。
聡明な読者の皆さんは、【上顎犬歯の位置異常にたいする処置法を考える その2】の中で提示した濾胞性歯嚢胞があった症例においては、上記の法則が当てはまらないのではないかと考えられたかもしれませんが、歯冠が嚢胞に覆われていたことで、乳歯歯根吸収による伝わるべき信号が届いていなかった。
そのために方向修正できなかったのだろうと演繹できるのではないでしょうか。
EricsonらによるSECTOR分類は、
●乳犬歯歯根と犬歯歯冠がすれ違うのか?
●すれ違わないとすれば、どの程度重なり、その重なりによって乳犬歯歯根吸収が起こる可能性、また吸収された乳犬歯歯根の方向に誘導される可能性
というものを表した、単純で2次元的な指標といえるでしょう。
上顎犬歯の位置異常にたいする処置方法を考える その5につづく
次回から「埋伏犬歯牽引の実際」について解説しようと考えているGG歯科医を応援していただける方、右下の【歯科医】ボタンをプチッとクリックお願いします。